丸善製薬と信州大学、ユキノシタエキスの抗炎症作用を確認
医薬品や医薬部外品、化粧品、食品の原料を製造する丸善製薬株式会社(広島県尾道市/代表取締役社長:日暮泰広)は10月20日、信州大学農学部・河原岳志准教授との共同研究によって、伝統的な薬草である「ユキノシタ」(生薬名:虎耳草)の抽出物「ユキノシタエキス」が、アクネ菌などを認識するセンサーの役割を担う「TLR2」の過剰な発現を起点とする炎症反応を抑制する作用を持つことを見出したと発表した。
「TLR2」とは、Toll様受容体2(Toll-like receptor 2)の略で、白血球や表皮角化細胞などの上皮細胞の細胞膜に存在する受容体タンパク質のことだ。これは、アクネ菌(ニキビの原因)や黄色ブドウ球菌(肌荒れの原因)などのグラム陽性菌を認識し、それらを排除する機構における「センサー」の役割を担っている。
しかし、これら微生物の過度な刺激によりTLR2が過剰に活性化すると、炎症状態が持続し、TLR2の発現がさらに高まる。これらのことから、同社ではTLR2の過剰な発現および活性化の抑制は、ニキビや肌荒れといった皮膚トラブル予防の新たなターゲットと成り得ると考え、研究を開始した。
そこでまず、ユキノシタエキスの潜在的有用性を検討するため、腫瘍壊死因子-α(TNF-α)で刺激した表皮角化細胞を用いて、208種の炎症応答分子を対象にしたDNAマイクロアレイ解析を実施した。
その結果、ユキノシタエキスに70種の炎症応答分子の発現を抑制する作用が確認された。また、これら70種の分子のうち、TLR2の発現が最も強く抑制された(図1、2)。
この結果より、表皮角化細胞を用いてユキノシタエキスがTLR2を介した炎症応答を抑制する作用について検討を進めた。これにより、ユキノシタエキスによってTLR2の遺伝子およびタンパク質の発現を抑制することが確認された。
さらに、TLR2活性化によって誘導される炎症性サイトカインであるインターロイキン(IL)-8の発現を抑制する作用について検証した。
その結果、ユキノシタエキスには、TLR2リガンド(Pam2CSK4)誘導によるIL-8の遺伝子およびタンパク質の発現上昇を抑制する作用が確認された(TLR2リガンド:TLR2に結合して活性化する物質)(図3、4)。
そして、TLR2活性化により誘導されるIL-8の発現上昇を抑制するユキノシタエキス中の関与成分の一つとして、procyanidin B2 3,3′-di-O-gallateが特定された(図5)。
これらの研究のうち、炎症応答分子を対象にしたDNAマイクロアレイ解析の結果からは、ユキノシタエキスに広範な抗炎症作用を持つ可能性が見出された。
また、アクネ菌(ニキビの原因)や黄色ブドウ球菌(肌荒れの原因)などのグラム陽性菌を認識するTLR2の過剰な発現を抑制することに着目した抗炎症理論は、主要な抗炎症成分や肌荒れ防止成分とは異なるアプローチであることから、ユキノシタエキスと既存成分の併用によって、ニキビや肌荒れといった皮膚トラブルの予防に、より高い効果が期待できると考えられた。
今後、同社はこれらの知見を活かし、ユキノシタエキスの応用研究や皮膚機能のさらなる解明に取り組んでいくとしている。