皮膚老化の原因に新知見 コラーゲン受容体「Endo180」の重要性を解明
医薬品や医薬部外品、化粧品、食品の原料を製造する丸善製薬株式会社(広島県尾道市/代表取締役社長:日暮泰広)は10月11日、コラーゲン線維の再構築(リモデリング)に関与する生体内因子「Endo180(エンド180)」に関する研究を推進し、その減少が紫外線を原因とするシワやたるみなどの形成、いわゆる「光老化」を進行させる詳細なメカニズムを解明したと発表した。
「Endo180」は、皮膚線維芽細胞に存在している膜タンパク質で、コラーゲン受容体の一つだ。
これまでの研究において、「Endo180」は紫外線等のダメージにより断片化・変性したコラーゲンが肌内部の細胞外マトリックス中に蓄積しないよう線維芽細胞内に回収することで、コラーゲンの「再構築」に関与し、コラーゲンの分解と再生のバランスの維持に大きな役割を果たしていることが知られていた※1。
一方、「Endo180」はUVBの影響により減少することが報告されていた※2。
これらのことから、「Endo180」の減少は、紫外線を原因とする肌の老化現象である「光老化」に関与していると考えられてきましたが、その詳細なメカニズムについては、未解明の部分も多く、更なる研究が求められていた(図1)。
※1:Iwahashi H. et al., proceeding of IFSCC 2016 Congress
※2:同社は、UVB照射したケラチノサイト由来のインターロイキン-1αが皮膚線維芽細胞のEndo180産生低下を誘導することを発見、報告した。
Iwahashi H. et al., Interleukin-1 alpha derived from ultraviolet B-exposed keratinocytes is associated
with a decrease of endocytic collagen receptor Endo180.
Photodermatol Photoimmunol Photomed. 2020 Jan;36(1):34-41
https://doi.org/10.1111/phpp.12502
そこで同社は、「Endo180」の遺伝子をノックダウンし、「Endo180」が一時的に機能しない皮膚線維芽細胞を作製した。これをコラーゲンゲル内に包埋し、正常細胞と比較する実験を行った。
これにより「Endo180」の減少が、皮膚線維芽細胞自身や細胞周辺の環境へ与える影響について、生体に近い条件下にて検証することが可能となった。そして本試験から以下のデータを取得した。
●コラーゲンゲルに包埋したEndo180ノックダウン皮膚線維芽細胞(Endo180 KD細胞)では、正常細胞(Control 細胞)と比較して、コラーゲン分解酵素(MMP-1)mRNAの発現が顕著に上昇し、I型コラーゲンα1(COL1A1)mRNAの発現が低下することが確認された(図2)。
●コラーゲンゲルに包埋したEndo180ノックダウン皮膚線維芽細胞の周辺では、断片化・変性したコラーゲンが多く確認された(A、B)。一方、新たなI型コラーゲンの産生は、ほとんど確認されなかった(C)(図3)。
●コラーゲンゲルに包埋したEndo180ノックダウン皮膚線維芽細胞の細胞質領域において、強い活性酸素の発生が観察された(図4)。
これらの結果、紫外線の影響による「Endo180」の減少は、断片化・変性したコラーゲンの皮膚線維芽細胞内への回収を低下させ、細胞周辺への蓄積を生じさせることがわかった。
これにより、皮膚線維芽細胞の周辺環境が悪化し、紫外線の影響を受けていなくても活性酸素が過剰に産生されるようになることも判明した。
この活性酸素の発生により、MMP-1の産生増加とコラーゲン産生低下が誘発されることで、皮膚線維芽細胞周辺の環境を一層悪化させる。
このように、Endo180の減少によりコラーゲンを再構築するシステムが停滞することでコラーゲン線維減少への「悪循環」へと陥り、シワやたるみの形成といった、光老化の進行につながると考察された(図/Endo180の減少を介した光老化進行メカニズム)。
なお、本研究結果については査読付き論文誌「Photodermatology, Photoimmunology & Photomedicine」に掲載された。