現在、日本ではエステティック業を定めた法律、エステティシャンの仕事の範囲等を定めた法律はなく、自由な発想で営業活動ができます。しかしその一方で、すでに法律で業を営むための資格や仕事の範囲や目的等を定められている業も多く、新しい職業といえるエステティック業の施術行為等は、時として既存の業法に抵触していると指摘されることがあります。

抵触する可能性のある法律については、一般社団法人日本エステティック振興協議会が定めた「業界統一自主基準」にも明記されていますが、多岐にわたります。
ここでは、日々の営業活動と特にかかわりの深い法律について解説するとともに、公官庁が発行しているお役立ちハンドブック等を紹介します。

また、「働き方改革」が推進される中、労働関係の法律も少しずつ改正されています。適正な雇用や労働環境の整備に役立つ公官庁発行のお役立ちハンドブック等も併せて紹介します。

【もくじ】

■特定商取引に関する法律(特定商取引法)
■不当景品類 及び不当表示防止法(景品表示法)
■改正消費者契約法(2019年6月15日施行)
■個人情報の保護に関する法律(個人情報保護法)
■働き方改革関連法 改正労働基準法
年次有給休暇の時季指定(厚生労働省 2019年4月)
■働き方改革関連法 改正労働基準法
 同一労働同一賃金 (厚生労働省 2020年4月)

■働き方改革関連法 改正労働基準法
 時間外労働の上限規制 (厚生労働省 2019年4月)

■改正労働施策総合推進法 パワーハラスメント防止対策(2020年6月1日施行)

■特定商取引に関する法律(特定商取引法)

特定商取引法は、事業者による違法・悪質な勧誘行為等を防止し、消費者の利益を守ることを目的とする法律です。 具体的には、訪問販売、通信販売、電話勧誘販売、連鎖取引販売、特定継続的役務提供、業務提供誘因販売取引、訪問購入の消費者トラブルを生じやすい取引類型を対象に、事業者が守るべきルールと、クーリング・オフ等の消費者を守るルール等を定めています。

エステティックは、長期・継続的な役務の提供と、これに対する高額の対価を約する取引に当たる特定継続的役務提供に分類され、エステティックサロンがお客さまと「役務提供契約の期間が1か月を超え、かつ契約金額が5万円(税込)を超える契約」を締結する場合は、特定商取引法の規制対象になり、「事前説明書」と「契約書面」の交付等、一定の規制と果たすべき義務が課せられます。
お客さまが退店時に施術ごとに支払う「都度払い」や、1か月以内で役務が終了する契約で金額が5万円を超えている、あるいは1か月を超える役務契約であっても、金額が5万円を越えていなければ特定商取引法で定める「特定継続的役務」提供の対象にはなりません。

また、特定商取引法では、事業者に対して、消費者への適正な情報提供等の観点から、各取引類型の特性に応じて、以下のような規制を行っています。特定商取引法の違反行為は、業務改善の指示や業務停止命令・業務禁止命令の行政処分、または罰則の対象となります。

・氏名等の明示の義務付け
特定商取引法は、事業者に対して、勧誘開始前に事業者名や勧誘目的であることなどを消費者に告げるように義務付けています。
・不当な勧誘行為の禁止
特定商取引法は、価格・支払い条件等についての不実告知(虚偽の説明)又は故意に告知しないことを禁止したり、消費者を威迫して困惑させたりする勧誘行為を禁止しています。
・広告規制
特定商取引法は、事業者が広告をする際には、重要事項を表示することを義務付け、また、虚偽・誇大な広告を禁止しています。
・書面交付義務
特定商取引法は、契約締結時等に、重要事項を記載した書面を交付することを事業者に義務付けています。
さらに特定商取引法は、消費者と事業者との間のトラブルを防止し、その救済を容易にするなどの機能を強化するため、消費者による契約の解除(クーリング・オフ)、取り消しなどを認め、また、事業者による法外な損害賠償請求を制限するなどのルールを定めています。
・クーリング・オフ
特定商取引法は、「クーリング・オフ」を認めています。クーリング・オフとは、申込みまたは契約の後に、法律で決められた書面を受け取ってから一定の期間(※)内に、無条件で解約することです。(※)訪問販売・電話勧誘販売・特定継続的役務提供・訪問購入においては8日間、連鎖販売取引・業務提供誘引販売取引においては20日間。通信販売には、クーリング・オフに関する規定はありません。
・意思表示の取消し
特定商取引法は、事業者が不実告知や故意の不告知を行った結果、消費者が誤認し、契約の申込みまたはその承諾の意思表示をしたときには、消費者は、その意思表示を取り消すことを認めています。
・損害賠償等の額の制限
特定商取引法は、消費者が中途解約する際等、事業者が請求できる損害賠償額に上限を設定しています。

●詳細掲載ページ
特定継続的役務提供Q&A(消費者庁)
https://www.no-trouble.caa.go.jp/qa/continuousservices.html
パンフレット(消費者庁 2017年11月)
https://www.no-trouble.caa.go.jp/pdf/20171208ac01.pdf

パンフレット(消費者庁 2017年11月)

■不当景品類 及び不当表示防止法(景品表示法)

景品表示法は、商品・サービスの品質、内容、価格等を偽って表示を行うことを厳しく規制するとともに、過大な景品類の提供を防ぐために景品類の最高額等を制限する法律です。ここでは、表示(顧客を誘引するための手段として、事業者が自己の供給する商品・サービスの品質、規格、その他の内容や価格等の取引条件について、消費者に知らせる広告や表示全般を指します)についてご紹介します。

景品表示法では、商品・サービスの品質や価格についての情報は、消費者が商品・サービスを選択する際の重要な判断材料であり、消費者に正しく伝わる必要があり、商品・サービスの品質や価格について、実際よりも著しく優良又は有利であると見せかける表示が行われると、消費者の適正な商品選択を妨げられることになります。このため景品表示法では、消費者に誤認される不当な表示を禁止しています。

・優良誤認表示
事業者が自己の供給する商品・サービスの取引において、その品質、規格その他の内容について、一般消費者に対し、

1.実際のものよりも著しく優良であると示すもの
2.事実に相違して競争関係にある事業者に係るものよりも著しく優良であると示すものであって、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められる表示

を禁止しています。具体的には、商品・サービスの品質を、実際よりも優れていると偽って宣伝したり、競争業者が販売する商品・サービスよりも特に優れているわけではないのに、あたかも優れているかのように偽って宣伝する行為が優良誤認表示に該当します。なお、故意に偽って表示する場合だけでなく、誤って表示してしまった場合であっても、優良誤認表示に該当する場合は、景品表示法により規制されることになりますので注意が必要です。

●詳細掲載ページ
事例でわかる景品表示法ガイドブック(消費者庁 2016年7月改訂)
https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/pdf/fair_labeling_160801_0001.pdf※現在は非公開

事例でわかる景品表示法ガイドブック(消費者庁 2016年7月改訂)

■改正消費者契約法(2019年6月15日施行)

消費者が事業者と契約をするとき、両者の間には持っている情報の質・量や交渉力に格差があります。このような状況を踏まえて消費者の利益を守るため、平成13年4月1日に消費者契約法が施行されました。同法は、消費者契約について、不当な勧誘による契約の取消しと不当な契約条項の無効等を規定しています。

平成28年、30年の改正で、取消し、無効の範囲が拡大しました。
不当な勧誘により締結された契約「うそを言われた(不実告知)」「不利になることを言われなかった(不利益事実の不告知)」「必ず値上がりするといわれた(暫定的判断の提供)」「通常の量を著しく超える物の購入を勧誘された (過料契約)」「お願いしても帰ってくれない(不退去)」「帰りたいのに反してくれない(退去妨害) 」に加えて、30年の改正で、次の事項が新設されました。
「就職セミナー商法等(不安をあおる告知)」「デート商法等(好意の感情の不当な利用)」「高齢者が不安をあおられる(判断力の低下の不当な利用)」「霊感商法等(霊感による知見を用いた告知)」「契約前なのに強引に代金を請求される等(契約締結前に債務の内容を実施等)」。

「事業者は責任を負わないとする条項(追加)」「消費者はどんな理由でもキャンセルできないとする条項(追加)」「成年後見制度を利用すると契約が解除されてしまう条項」(新設)

●詳細掲載ページ
不当な契約は無効です 早わかり!消費者契約法(消費者庁 2019年6月)
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_system/consumer_contract_act/public_relations/pdf/public_relations_190401_0001.pdf ※現在は非公開

不当な契約は無効です 早わかり!消費者契約法(消費者庁 2019年6月)

■個人情報の保護に関する法律(個人情報保護法)

個人情報の保護に関する法律は、利用者や消費者が安心できるように、企業や団体に個人情報をきちんと大切に扱ってもらった上で、有効に活用できるよう共通のルールを定めた法律です。

個人情報とは、生存する個人に関する情報であって、氏名や生年月 日等により特定の個人を識別することができるものをいいます。個人情報には、他の情報と容易に照合することができ、それにより 特定の個人を識別することができることとなるものも含みます。

情報通信技術の発展や事業活動のグローバル化等の急速な環境 変化等を踏まえ、平成27年9月に改正法が公布され、平成29 年5月30日から全面施行されました。改正前の個人情報保護法では、5000人以下の個人情報しか有しない中小企業・小規模事業者の方は適用対象外となっていましたが、法改正によりこの規定は廃止され、個人情報を取り扱う「すべての事業者」に個人情報保護法が適用されることとなりました。

取り扱う個人情報の数に関わらず、例えば、紙やデータで名簿 を管理されている事業者は、すべて「個人情報取扱事業者」となり、 法の対象になります。「事業者」には法人に限らず、マンションの管理組合、NPO 法人、自治会や同窓会などの非営利組織も含まれます。

個人情報保護法では、民間事業者の個人情報の取扱いについて、4つの基本ルールを規定しています。

1.個人情報の取得・利用
個人情報取扱事業者は、個人情報を取り扱うに当たって、利用目的 をできる限り特定しなければならないとされています。その際、利用目的はできるだけ具体的に特定しましょう。また、特定した利用目的は、あらかじめ公表しておくか、個人情報を取得する際に本人に通知する必要があります。

※「要配慮個人情報」
「要配慮個人情報」は、不当な差別、偏見その他の不利益が生じないように取扱いに配慮を要する情報として、法律・政令・規則に定められた情報です。

人種、信条、社会的身分、病歴、犯罪の経歴、犯罪により害を被った事実等のほか、身体障害、知的障害、精神障害等の障害があること、 健康診断その他の検査の結果、保健指導、診療・調剤情報、本人を被 疑者又は被告人として、逮捕、捜索等の刑事事件に関する手続が行わ れたこと、本人を非行少年又はその疑いがある者として、保護処分等の少年の保護事件に関する手続が行われたことが該当します。

要配慮個人情報を取得する場合は、利用目的の特定、通知又は公表に加え、あらかじめ本人の同意が必要です。また要配慮個人情報は、オプトアウトによる第三者提供はできないので注意が必要です。

2.個人データの安全管理措置
個人情報取扱事業者は、個人データの安全管理のために必要かつ適 切な措置を講じなければならないとされています。漏えい等が生じないよう、安全に管理するほか、業者・委託先 にも安全管理を徹底する必要があります。

3.データの第三者提供
個人情報取扱事業者は、個人データを第三者に提供する場合、原則としてあらかじめ本人の同意を得なければなりません。 また、第三者に個人データを提供した場合、第三者から個人データの提供を受けた場合は、一定事項を記録する必要があります。

4.保有個人データの開示請求
個人情報取扱事業者は、本人から保有個人データの開示請求を受け たときは、本人に対し、原則として当該保有個人データを開示しなければならないとされています。また、個人情報の取扱いに関する苦情等には、適切・迅速に対応するよう努めることが必要です。

●詳細掲載ページ
「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン」及び 「個人データの漏えい等の事案が発生した場合等の対応について」 に関するQ&Aより(抜粋)(個人情報保護委員会 2018年7月)
https://www.ppc.go.jp/files/pdf/180720_faq_for_smallbusiness.pdf※現在は非公開
https://www.ppc.go.jp/files/pdf/kojinjouhou_handbook.pdf※現在は非公開

個人情報保護法ハンドブック

■働き方改革関連法 改正労働基準法
 年次有給休暇の時季指定(厚生労働省 2019年4月)

改正された労働基準法では、使用者は対象者となる、法定の年次有給休暇付与日数が10日以上の全ての労働者(管理監督者を含む)に対して、毎年5日、年次有給休暇を確実に取得させる必要があります。

労働者ごとに、年次有給休暇を付与した日(基準日)から1年以内に5日について、使用者は「労働者自らの請求」、「計画年休」及び「使用者による時季指定」のいずれかの方法で年次有給休暇を取得させる必要があります。さらに、使用者は労働者ごとに年次有給休暇管理簿を作成し、3年間保存しなければなりません。

●詳細掲載ページ
年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説(厚生労働省 2019年4月)
https://www.mhlw.go.jp/hatarakikata/pdf/000463186.pdf

年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説

■働き方改革関連法 改正労働基準法
 時間外労働の上限規制 (厚生労働省 2019年4月)

改正労働基準法では、時間外労働(休日労働は含まず)の上限は、原則として、月45時間・年360時間となり、臨時的な特別の事情がなければ、これを超えることはできなくなります。

臨時的な特別の事情があって労使が合意する場合でも、時間外労働 …年720時間以内 、時間外労働+休日労働 …月100時間未満、2~6か月平均80時間以内とする必要があります。
原則である月45時間を超えることができるのは、年6か月までです。

法違反の有無は「所定外労働時間」ではなく、「法定外労働時間」の超過時間で判断されます。大企業への施行は2019年4月ですが、中小企業への適用は1年猶予され2020年4月となります。

法律に違反した場合には罰則(6か月以下の懲役または30万円以下の罰金)が科されるおそれがあります。

●詳細掲載ページ
時間外労働の上限規制 わかりやすい解説(厚生労働省 2020年4月)
https://www.mhlw.go.jp/hatarakikata/pdf/000463185.pdf

時間外労働の上限規制 わかりやすい解説

■働き方改革関連法 改正労働基準法 同一労働同一賃金 (厚生労働省 2020年4月)

同一企業内において、正社員と非正規雇用労働者との間で、基本給や賞与などのあらやる待遇について、不合理な待遇差を設けることが禁止されたパートタイム・有期雇用労働者法が2020年4月から施行されました(中小企業の適用は20201年4月1日~)。

非正規雇用労働者は、「正社員との待遇差の内容や理由」など、自身の待遇について事業主に説明を求めることができるようになります。事業主は、非正規雇用労働者から求めがあった場合は、説明をしなければなりません。

また事業主は、正社員と短時間労働者・有期雇用労働者の働き方の違いに応じて、均衡待遇(不合理な待遇差の禁止)、均等待遇(差別的取扱いの禁止)の確保を図るための措置を講じなければなりません。

●詳細掲載ページ
パートタイム・有期雇用労働法
対応のための取組手順書(厚生労働省 2020年4月)
https://www.mhlw.go.jp/hatarakikata/pdf/000467476.pdf

パートタイム・有期雇用労働法 対応のための取組手順書

■改正労働施策総合推進法
パワーハラスメント防止対策(2020年6月1日施行)

2020年6月1日(中小企業は2022年4月1日~)より職場におけるパワーハラスメント防止対策が強化され、パワーハラスメント防止措置が事業主の義務となります。

職場におけるパワーハラスメントとは、
①優越的な関係を背景とした言動
②業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動
③労働者の就業環境が害されるもの
であり、①~③までの要素をすべて満たすものをいいます。

また職場におけるパワハラに該当すると考えられる例(代表的な言動類型)としては下記の6項目があげられます。
①身体的な攻撃(暴行・傷害)②精神的な攻撃(脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言)
③人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)
④過大な要求(業務上明らかに不要なことや 遂行不可能なことの強制・仕事の妨害)
⑤過小な要求(業務上の合理性なく能力や経 験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと)
⑥個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)

●詳細掲載ページ
リーフレット パワーハラスメント対策が事業主の義務となります(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000527867.pdf※現在は非公開

リーフレット パワーハラスメント対策が事業主の義務となります